8月30日(日)、広島県広島市の広島国際会議場で開催された『第38回日本マスターズボディビル選手権大会』。男子ボディビル75歳以上級で、昭和医科大学教授の蜂須貢(はちす・みつぐ/76)選手が優勝を果たした。
【写真】76歳とは思えない!パワーリフティングとボディビルで作り上げた蜂須貢選手の筋骨隆々の肉体

日本マスターズ選手権は、40歳以上の男女を対象に、年代別で鍛え上げた身体を競うJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)主催の日本大会だ。
蜂須選手は、昭和医科大学薬学部臨床薬学講座薬物治療学部門、スポーツ運動科学研究所の教授を経て現在客員教授。さらに2015年には世界マスターズボディビル選手権の65歳以上級で2位。日本クラシックパワーリフティングでは、マスターズⅢ(60歳台)とマスターズⅣ(70歳台)の66kg級日本記録も保持している。
パワーリフティングは、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの合計挙上重量を競う競技。一方のボディビルは、筋肉の大きさやバランス、絞りなど、鍛え上げた身体そのものを競う。蜂須選手は『力』と『肉体美』という異なる要素を追求する両競技で、世界トップレベルの実績(コロナ前まではパワーリフティング66㎏級、74㎏級の世界記録も保持)を残してきた。
そんな蜂須選手に、年齢とトレーニングの関係について尋ねると、返ってきたのは実にシンプルな答えだった。
「まず、年齢を重ねることを意識していないんです。トレーニングの量も、昔とほとんど変わっていません」
蜂須選手が自身の競技力のピークと捉えているのは、パワーリフティングで日本記録を樹立した60代前半から半ばの時期。そこから10年以上がたった現在も、できる範囲で高強度のトレーニングを続けている。
練習で扱う現在の重量を聞くと、デッドリフトは約200kg、ベンチプレスは約120kg、スクワットは約180kgという驚異的な数字だ。
全盛期の自己ベストは、デッドリフト217.5kg、ベンチプレス137.5kg、スクワット200kg。数字だけを比べれば多少の低下はあるものの、現在もデッドリフトで200kgを引くことができるという。
「できる範囲のことを、できるだけやっています。トレーニングは、いつもデッドリフト、ベンチプレス、スクワットがメインです」
年齢を理由に最初から限界を決めるのではなく、その日の身体と向き合いながら、できることを積み重ねる。その自然体の姿勢が、驚異的な筋力と筋肉を保つ土台となっている。
米国で刺激を受け本格的トレーニングを開始
じつは蜂須選手が本格的にウエイトトレーニングを始めたのは、40歳ごろだった。
30歳のころには研究のため米国に約1年半滞在。現地で身体の大きな人々や、広がり始めていたフィットネス文化に触れ、「自分も大きくならなければ」と刺激を受けたという。帰国後、勤務先にフィットネスクラブを立ち上げたことをきっかけに、本格的なトレーニングを開始した。
42歳で神奈川県のボディビル大会・マスターズの部に初出場するも、結果は予選落ち。しかし、そこで終わらなかった。
「それなら入賞しようと思って、1年間、少し身を入れてトレーニングしました。そうしたら翌年、優勝してしまったんです」
43歳で同大会を制覇。40歳からの数年間で体重は約5kg増え、見た目にもはっきり分かるほど筋肉がついたという。
その後はベンチプレス大会やパワーリフティングにも挑戦。失敗や競技から離れた時期を経験しながらも、トレーニングそのものをやめることはなかった。60歳を過ぎてからボディビル競技へ本格復帰し、やがてパワーリフティングとボディビルの双方で世界の表彰台に立った。
現在の身体を支えている要素の一つとして、蜂須選手が挙げるのが食事だ。
「僕は、おかずのほとんどが野菜炒めなんです。魚か肉を必ず入れますが、野菜炒めがメインですね。野菜の抗酸化作用も良いのではないかと思っています」
一度に食べる野菜は、一般的な量でいえば約3人前。ニンジンや葉物野菜(緑黄色野菜)など、色の濃い野菜を意識している。キャベツも、スーパーで捨てられることの多い外側の葉を大切に食べるという。
そこに肉なら約150g、魚ならサンマやアジを1匹、イワシなら2匹ほどを合わせ、ご飯を茶碗に軽く1杯。これが日々の基本的な食事となっている。
さらに、プロテイン約20gときな粉約20g、牛乳約400ml、バナナを混ぜたシェイクも摂取する。
「きな粉を加える理由は、大豆由来のタンパク質を補えることに加えて、価格面での取り入れやすさもありますね」
大学では、こうした自らの実践と薬学・スポーツ科学の知識を生かし、「健康を維持するための筋トレ・栄養学」をテーマとした講義も担当。筋力トレーニングと生活習慣病予防、食事や栄養、サプリメント、フレイル予防などを中高年や指導者に伝えている。
研究者として身体の仕組みを学び、競技者として自ら実践し、その経験を再び教育へと還元する。蜂須選手の歩みは、筋トレが単に筋肉を大きくするためだけのものではなく、人生を長く、力強く楽しむための手段になり得ることを示している。
今後の目標について、蜂須選手は「日本一を狙える身体をキープできるといいなと思っています」と語る。
40歳から本格的に始めた筋トレは、75歳を超えた今も蜂須選手を成長させ続けている。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
執筆者:柳瀬康宏
『月刊ボディビルディング』『IRONMAN』FITNESS LOVE』などを中心に取材・執筆。保有資格は、NSCA-CPT,NSCA-CSCS,NASM-CES,BESJピラティスマット、リフォーマー。メディカルフィットネスジムでトレーナーとして活動もしており、2019年よりJBBF、マッスルゲート、サマースタイルアワードなどのボディコンテストに毎年挑戦している。
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取材・文:柳瀬康宏 写真:中原義史
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