タンパク質を補給する食材として、まず思い浮かべるのは肉だろう。その中でも、牛肉は人気の高い食材だ。
しかし、近年は牛肉をはじめとする赤肉(レッドミート)の過剰摂取に伴う健康に関するリスクや、管理された飼育施設での商業的な肉牛生産による環境破壊など、さまざまなリスクに対して警鐘を鳴らす記事もよく目にするようになった。
そんな中で注目を集めるのがオーガニック(有機畜産)という肉牛や乳牛の飼育方法だ。
そこで、本記事では米フィットネス誌がまとめたオーガニック牛に関するレポートを詳しく解説する。
(IRONMAN2025年12月号「from IRONMAN USA」より転載)
牛赤身肉は栄養素の宝庫

筋肉を育てるためにはタンパク質が必要不可欠だ。アスリートやトレーニーがタンパク源として赤身肉を重視するのは、明確な科学的根拠がある。
赤身肉とは、その名の通り赤色で、飽和脂肪が少ない筋肉部位を指す。牛肉がその代表格とされるが、豚肉、羊肉、鹿肉なども含まれる。
今回は、特に牛肉について、トレーニーにどのようなメリットがあるのか解説していきたい。
赤身肉の魅力は高タンパク質であることだが、他にも利点がある。
例えば、アリゾナ州立大学の管理栄養士リック・ホール氏によると、牛肉は9種類すべての必須アミノ酸をバランス良く含み、摂取後の生物学的利用価が極めて高い。
つまり、摂取したタンパク質が体内で効率よく吸収され、筋タンパク質の合成や修復に利用されるのである。
さらに、牛肉の赤身肉には微量栄養素が豊富に含まれる。
例えば、抗酸化物質のセレン、吸収率の高い鉄分、免疫力を高める亜鉛などのミネラル類、ビタミンのチアミン、リボフラビン、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6やB12、さらにクレアチンも含まれている。
米国農務省(USDA)によると、牛肉(モモ肉など)は部位の約28%がタンパク質で構成されており、筋肥大を目指すなら最適な食材に挙げられるだろう。
牛赤身に含まれる微量栄養素
ミネラル類
- セレン
- 鉄分
- 亜鉛
ビタミン
- チアミン
- リボフラビン
- ナイアシン
- パントテン酸
- B6
- B12
クレアチン
- クレアチン
脂質
- オメガ3脂肪酸
- CLA
- DHA
編集注
編集注
2015年、国際がん研究組織(IARC)の発表で赤肉は「おそらく人に対して発がん性がある(Group2A)」に分類された。
しかしここでの「赤肉」とは牛・豚・羊肉などのことを指し、脂肪含有量の少ない赤身肉とは異なることに注意が必要である。
また、肉の脂身には飽和脂肪酸が多く含まれるものの、過度に摂取量が少ないことで脳卒中のリスクが上昇することが明らかになっている。
参考文献
オーガニック牛とは
近年、飼育法に着目した「オーガニック(有機)牛」が注目を集めている。
これは、遺伝子組み換えでない有機飼料のみで育てられ、抗生物質や成長ホルモンの使用が厳格に禁止されている。
また、放牧や広いスペースで飼育されるため、価格は高価になりがちだ。

研究によれば、その違いは「脂肪の質」に顕著に現れる。 一般的に、穀物飼料で急速に肥育された商用牛肉は、オーガニック認証の牛肉に比べ、総脂肪量が2倍以上になる場合がある。
また、脂肪の質にも差がある。牧草や緑葉に含まれる葉緑体には、オメガ3脂肪酸が含まれるが、穀物中心の飼料ではこの葉緑体が不足するため、商用牛肉はオメガ3の含有量が著しく低くなる。
加えて、オーガニック牛はCLAやDHAなどの含有率が高いことが報告されている。DHAは必須脂肪酸であり、CLAは特定のガン予防やインスリンの感受性を改善する働きがあることが知られている。
パレオダイエットを勧める理由
旧石器時代の人類の食事(パレオダイエット)が、現代人の健康モデルとして注目を集めている。
これは、加工食品や添加物を含まない自然な食事がヒトに適しているという思想に基づいている。旧石器時代の狩猟採集民は、摂取カロリーの約35%がタンパク質であり、食事の68% が狩猟による肉で占められていたとされる。
ではなぜ現代において、肉は心血管疾患、脳卒中、特定のがんのリスクと関連付けられ、「摂取を控えるべき」という指導がなされるのか。一部の栄養学者は、現代の私たちが食べている牛肉がヒトの身体の進化に適合したものではないと考えている。
約80年前まで、世界の牛のほぼ全てが牧草で育てられていた。しかし現代の畜産、特に霜降り肉用の肉牛は、短期間で太らせ、脂肪を意図的に蓄積させるため、高カロリーな穀物飼料を使う。
確かに霜降り肉は脂の甘みや柔らかさが評価されるが、飽和脂肪が多いため栄養バランスが良いとは言えない。
そして、このような牛肉を食べ続けることで現代病のリスクが高まると考えられている。

同じ100㎉ でも…
| ハンバーガー | P 7.8g |
| バッファロー肉のステーキ | P 19.9g |
ジビエにはオメガ3脂肪酸が豊富に含まれており、非オーガニック牛と比較すると5倍も多いことが明らかになっている。
また、多価不飽和脂肪酸は非オーガニック牛の2~3倍あるとされている
オーガニック牛 VS 非オーガニック牛

| 脂質: | 4~8カ月にわたる檻での飼育は、放牧された牛と比較して総脂肪量を4~6倍増加させるとの報告がある。 また、飼育途中で穀物飼料へ切り替えると、オメガ3は失われ、飽和脂肪酸が優位になることも確認されている。 |
| カロリー: | 牧草のみで育ったオーガニック牛の脂肪含量は、皮を除いた鶏肉やジビエとほぼ同等のレベルにある。 180gのサーロインステーキで比較した場合、オーガニック牛は非オーガニック牛よりも総カロリーが約100kcal 低いことが示されている。 |
| ビタミンE: | オーガニック牛は、非オーガニックと比べてビタミンEが5倍も多いとされている。 ビタミンEには強力な抗酸化作用があると知られている。 |
オーガニック牛を選ぶ際の注意点
オーガニック認証は、必ずしも安全性を保証しない。
このラベルは、農薬やホルモン剤の不使用を示すもので、必ずしも牧草飼育を意味しない。有機栽培された穀物で肥育された牛肉も「オーガニック」として流通しうるからだ。
認証基準は国によって異なり、抗生物質の使用禁止などは共通する一方、飼育環境や飼料の定義には幅がある(日本の場合は有機飼料が100%である必要性はない)。
私たちが食材を選ぶ際には、以上のことを理解しておく必要があるのだ。
中高年者こそ赤身肉が必須?

加齢に伴う筋量の減少、特にサルコペニアは、単なる老化現象として軽視すべきではない。筋量の低下は、QOLの低下や様々な身体的障害を引き起こしかねないからだ。
カナダ・マクマスター大学のスチュアート・M・フィリップス氏らの研究は、この問題に対する赤身肉の可能性を示唆している。
研究チームは、平均年齢59歳の男性を対象に、定期的な運動と組み合わせ、1日あたり約170gの赤身肉を含む食事を摂取する群を設定した。
その結果、対照群と比較して、運動後の筋タンパク質の同化率が有意に高まることが確認された。
この摂取量(週換算1190g)は、WHO(世界保健機関)やWCRF(世界がん研究基金)が定める推奨上限である週500g以下を大幅に超える。
しかし研究者らは、運動と組み合わせることを前提とするならば、こうしたタンパク質摂取が筋量減少を抑制する上で有効な戦略となり得ると推測している。
オーガニック飼育が地球を守る?
穀物飼育からオーガニック飼育へ切り替えることは、サステナビリティの観点からも必要であると主張されている。
例えば、コーネル大学の生態学者デビッド・ピメンテル教授は、アメリカで家畜飼料として消費されている膨大な量の穀物を、仮に人間の食用に転用した場合、約8億人分の食料をまかなうことが可能だと試算している。
また、今のまま家畜の飼料を穀物に依存し続けると、いずれ動物性タンパク質食品の生産コストが非効率的に増大するという懸念もある。つまり、生物学的に不自然な飼育方法は、経済的にも持続可能ではないという視点だ。
代替案として、限界集落や耕作放棄地を家畜の自然放牧地として活用することが、合理的な資源の再配分につながるのではないかという提言もなされている。

ゴミはゴミを生む
「ゴミはゴミを生む」という格言がある。牛は本来、草を主食とする反芻動物である。
その牛に対し、短期間で肥育させるためにトウモロコシや大豆といった穀物飼料を強制的に与える行為は、人間の都合を優先したものであり、牛の生物学的な設計に反している。
これがさらにエスカレートし、牛の脳や脊髄由来の肉骨粉のような動物性タンパク質を飼料に混合した結果、世界的な公衆衛生問題となったBSE(狂牛病)が引き起こされた事実は、あまりにも有名である。
牛についても何を食べるのかということは重要で、目を向けるべきなのだ。
参考文献
Robinson, R.J., et al. (2012). Dose-dependent responses of myofibrillar protein synthesis with beef ingestion are enhanced with resistance exercise in middle-aged men. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism. Published online November 9.
Cordain, L., et al. (2002). Fatty acid analysis of wild ruminant tissues: evolutionary implications for reducing diet-related chronic disease. Eur J Clin Nutr. 56:181-191.
Haapapuro, E.R., et al. (1997). Animal waste used as livestock feed: dangers to human health. Preventive Medicine. 26:599-602.
Russell, J.B., et al. (2000). Potential effect of cattle diets on the transmission of pathogenic Escherichia coli to humans. Microbes and Infection. 2:45-53. IM










