体内でカルノシンを作り出す非タンパク質性アミノ酸(アミノ酸の一種)であるβ-アラニン(β-alanine)が、競技パフォーマンス向上や日々のトレーニングをサポートする栄養成分として注目されている。
そこで、本記事では米フィットネス誌が検証したβ-アラニンの運動効果についてのトピックを詳しく解説する。
(IRONMAN2025年12月号「from IRONMAN USA」より転載)
筋肉酸性化の中和に関与
高強度トレーニングをする際、身体が利用するエネルギー源は主にグリコーゲンと脂肪だが、無制限に使えるわけではない。特にグリコーゲンは糖質制限中に不足しがちであり、エネルギーレベルを高めることは決して簡単なことではない。
そこで今回は、エネルギーレベルを高める鍵を握ると考えられるβ-アラニンについて解説していきたい。
運動を続けると、筋収縮の繰り返しによって水素イオンが蓄積する。水素イオンが筋細胞内に溜まると筋肉は酸性化し、最終的には収縮能力が停止し、運動を継続できなくなる。幸いなことに、体内には水素イオンを減らす物質がある。それが乳酸だ。
乳酸は筋中に蓄積された水素イオンと結合し、筋肉の外に運び出す役割があり、筋中の酸性濃度を緩和する。しかし、乳酸の量にも限界がある。乳酸が枯渇し、水素イオンの処理が追いつかなくなったとき、強烈なバーン感が生じるのだ。
強酸性状態では、クレアチンリン酸の再合成や解糖反応が停滞する。これによりエネルギー生成能力が低下し、疲労が極度に感じられ、運動の継続が不可能となる。

実は、乳酸が不足しても次の対策がある。それがカルノシンだ。カルノシンは筋肉の酸性化を軽減し、疲労感によって運動の継続が停滞するまでの時間を延長することができる。
そのため、対象筋をより追い込むことが可能となる。カルノシンは、速筋線維により多く含まれ、速筋の割合が高いエリートアスリートやボディビルダーにおいて、その緩衝能力が特に重要視されている。

しかし、カルノシンのサプリメントを直接摂取しても、体内ですぐに分解されてしまう。そこで、筋中のカルノシンレベルを高めるために注目されるのが、β-アラニンだ。
β-アラニンはヒスチジンとともにカルノシンの材料となるアミノ酸だ。ヒスチジンは必須アミノ酸なので食物から取る必要があるが、ヒスチジンが不足することはほとんどない。
一方、β-アラニンは非タンパク質態アミノ酸の一種であり、体内で合成することができる。しかし、体内でのβ-アラニンの量が限られているためカルノシンを確保するためには食事やサプリメントから摂取する必要がある。

編集注
β-アラニンは鶏肉や魚などに含まれ、一般的な食事では1日に最大1gを摂取することになる。しかし、後述するように競技パフォーマンスの向上を狙うならば4~6gが適当であると考えられるため、食事だけからでは十分な量をまかなうことができない可能性がある。
β-アラニン摂取でタイム更新
ある実験では、被験者たちにβ-アラニンを4~10週間にわたって取ってもらったところ、筋中のカルノシンレベルが60~80%も上昇したと報告されている。
また、カルノシンの増加はβ-アラニンの摂取量によって変動し、さらにはβ-アラニンの摂取を中断すると、筋中カルノシンレベルは1週間ごとに2%ずつ低下することも示された。
β-アラニンの体内レベルが高まると、運動能力や筋持久力の向上、筋量(除脂肪体重)の増加、さらに運動量の増加が期待される。特に、60秒から240秒間にわたって持続する高強度な運動において、パフォーマンスの改善が見られる。
別の実験では、ローイング(ボート漕ぎ)競技のベテランアスリート18名を対象にβ-アラニンとカルノシンの関係性が調査された。
結果、β-アラニン群のカルノシンレベルは、ヒラメ筋で45.3%、腓腹筋で28.2%の増加を示した。このカルノシンレベルの上昇は、競技能力にも反映された。β-アラニン群はプラシーボ群よりも4.3秒速くゴールし、自身の実験前タイムも0.3秒短縮した。
また、これ以前に行われた実験では、β-アラニンが筋持久力を高め、筋疲労を緩和させることによって運動強度を高めることが示唆されている。
摂取上の注意点
摂取量の目安
筋中のカルノシンのレベルを高めることで、競技パフォーマンスが向上することは研究でも明らかになっているが、実際にどの程度のβ-アラニンを取ればいいのだろうか。
これまでの研究結果によると、β-アラニンの摂取量とカルノシンレベルには明確な比例関係があるようだが、取れば取るほど効果が上がるというものではないと思われる。これまでの実験結果から1日あたり4~6g程度のβ-アラニンを摂ることで、筋中のカルノシンレベルを64%増加させることができると確認されている。
したがって、1日あたり4~6gが摂取量の目安になるのではないだろうか(上限は1日8g程度)。
摂取タイミング

筋中のカルノシンレベルの最大化を目指す場合、β-アラニンの摂取タイミングと持続性が鍵となる。BCAA などのアミノ酸とは異なり、β-アラニンは空腹時よりも食事との同時摂取が推奨される。これは、食事によって血糖値が上昇し、インスリンが分泌されることに関係する。
インスリンは血中の栄養素を積極的に細胞に取り込む働きがあるので、食事中にβ-アラニンを摂取することでより効率よく吸収できると考えられる。
ただし、注意事項もある。単発的な摂取やトレーニング直前の摂取では、筋中のカルノシンレベルを急激に上昇させる効果はない。少なくとも4週間以上の継続的な摂取がなければ、筋中のカルノシンレベルに影響することはないようだ。
4週間以上経過した後は、1日あたりの摂取量を1.2g程度にして摂取を続けることで、筋中のカルノシンレベルを一定の状態で保つことができる。
また、筋中のカルノシンレベルは比較的速やかに低下する傾向があるため、β-アラニンのサプリメントを継続摂取する必要がある。
クレアチンとの組み合わせ
『インターナショナル・ジャーナル・オブ・スポーツニュートリション&エクササイズ・メタボリズム』にはβ-アラニンとクレアチンの相乗的なパフォーマンス向上効果が報告されている。
この実験では男性被験者をプラシーボ群、クレアチン摂取群、クレアチン+β-アラニン摂取群の3つのグループに分け、各グループで筋力、除脂肪体重、体脂肪率にどの程度の差が出るかが検証された。
10週間後に検証した結果、クレアチンとβ-アラニンを組み合わせたグループにおいて、全ての項目が有意に増加したことが確認された。
このことから、特にボディビルダーは、クレアチンとの併用が効果的かもしれない。










